環境
TCFD提言に基づく
気候関連の情報開示

TCFD提言に基づく気候関連の情報開示について

東京証券取引所の最上位市場である「プライム市場」を選択した企業は、コーポレート・ガバナンスコードで、気候変動が与える影響についてTCFDの提言に基づく開示を求められるようになりました。当社は、気候変動に伴うリスク・機会、財務的な影響等を提言に即して開示をしてまいります。

1 ガバナンス

当社グループは、持続可能な社会の実現に向け社会的責任を果たすために、グループサステナビリティ推進委員会(以下「推進委員会」という。)を設置し、ESGの重要課題への対応を通じたサステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進しています。また、取締役会はグループサステナビリティ基本方針を策定するとともに、推進委員会より定期的に(年1回以上)報告を受け、その監督を行っています。

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2 戦略

中長期の視点で気候関連の「リスク」と「機会」を特定し、事業へのインパクトや影響を評価するとともに、複数の気候関連シナリオを使って財務的な影響を分析し、今後の戦略と対応策の検討を行いました。

2-1情報開示の対象とする事業

当社グループのシンボリックな事業であり、かつ、Scope1・2の合計排出量が最も多い運輸セグメントを情報開示の対象としました。

2022年3月期営業収益
2022年3月期Scope1・2排出量
  • Scope1 事業活動に伴う直接排出量(軽油、ガソリン、ガスなど)
    Scope2 事業活動で使用した熱・エネルギーの製造段階における間接排出量(電力)

2-2分析時間軸及びシナリオ

分析時間軸を2050年とし、シナリオについては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)※1が策定した4℃シナリオ(RCP8.5)※2と2℃シナリオ(RCP2.6)を採用しました。

分析時間軸及びシナリオイメージ図
  1. IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)気候変動に関する政府間パネルは、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に、1988年に設立された政府間組織
  2. RCP(Representative Concentration Pathways)代表的濃度経路シナリオは、数値が大きいほど2100年における放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)が大きいことを意味する

2-3シナリオ分析の手順

以下のSTEP1~4の手順に従ってシナリオ分析を行いました。

シナリオ分析の手順イメージ図

2-3-1 STEP1リスク重要度の評価(リスク、機会の特定)

※横にスクロールできます。

リスク・機会項目 事業インパクト 評価
大分類 小分類 指標 考察:リスク 考察:機会

移行リスク・機会

炭素価格 収益
支出
  • ガソリン、軽油、LPG等の化石燃料についてコストが増加する
  • 脱・低炭素に対応したバス・タクシーの導入を進める転換点とすることができる
エネルギー価格 収益
支出
  • 生産地域が中小規模、極地等へシフトすることで原油価格が上昇する
  • 電源構成において再生可能エネルギーの割合が高まった場合、電力コストが増加する
  • オフィスや施設における脱・低炭素技術(高効率空調、照明のLED化等)導入や省エネ改修によりコストダウンを図ることができる
  • 脱・低炭素に対応したバス・タクシーの導入を進める転換点とすることができる
顧客の評判変化 収益
資産
  • 脱・低炭素に消極的な姿勢が企業イメージの低下や従業員の採用難につながる
  • 車両の脱炭素化が不十分な場合、脱炭素を進める企業、学校、行政の利用(選択)対象から外れる
  • 脱・低炭素に積極的に取り組むことで企業イメージの向上や優秀な人材を採用することができる
  • 車両の脱炭素化を進めることで、環境意識の高い人々、企業、団体等の公共交通機関(バス)の利用が拡大する
投資家の評判変化 支出
資産
  • CO2削減目標や再生可能エネルギーの取組みを訴求できなければ投資対象から外れる
  • 脱炭素の取組みを訴求することで株価が上昇し、企業価値が向上する
  • 環境配慮型の融資が受けられれば、資金調達においても好影響が生まれる

物理的リスク・機会

平均気温の上昇
(猛暑日増加・冬日減少)
収益
支出
資産
  • 猛暑日の増加、感染症拡大等の影響でバス・タクシー利用者が減少する
  • 空調設備の稼働率の上昇等により冷暖房費が増加する
  • 従業員の業務効率が低下する
  • オフィスや施設における脱・低炭素技術(高効率空調、照明のLED化等)導入や省エネ改修により、ランニングコストが低減する
  • 冬季のレジャー需要増加(秋シーズンの長期化)により、バス・タクシーの利用が増加する
降水・気象パターンの変化
異常気象の激甚化
収益
支出
資産
  • 道路の浸水により路線バスが運休する
  • 車庫の浸水等により、事業活動が困難になる
  • 車庫、オフィスの浸水等により修繕費が発生する
  • 従業員の出勤停止により業務活動が一時的に停止する
  • 想定を上回る規模の災害が発生した場合、利用者、従業員の安全や健康が損なわれる可能性がある
  • 気候変動により、風水害の影響を受けやすい資産の保険料が増加する
  • 浸水被害の対策として施設の補修や補強を十分行うことで被害が軽減され、災害に強い経営基盤構築につながる
  • 浸水リスクが高い資産の保有比率の引き下げや移転等で、レジリエンスの強化を図ることができる

運輸セグメントでは、炭素価格、エネルギー価格(軽油・ガソリン・LPG)の変動、平均気温の上昇、降水・気象パターンの変化、異常気象の激甚化が事業活動及び財務面に大きな影響を与えるリスクとなることが確認できました。

2-3-2 STEP2シナリオ群の定義(気候関連シナリオの設定)

※横にスクロールできます。

項目 現在(シナリオ
設定時)
2050年 出所
4℃ 2℃
炭素価格 炭素税 6,867円/tCO2(2025年)
15,260円/tCO2(2040年)
IEA※1(2020)
World Energy Outlook SDS
エネルギー価格 原油価格 100$/bbl 102$/bbl(2040年)
107$/bbl(2050年)
71$/bbl(2030年)
66$/bbl(2040年)
56$/bbl(2050年)
IEEJ※2 Outlook2021
「レファレンスシナリオ」
「技術進展シナリオ」
電力価格

託送費用込み

23円/kWh 23円/kWh 25円/kWh(2030年)
27円/kWh(2040年)
29円/kWh(2050年)
IEEJ 2050年カーボンニュートラルの試算
「ベース」シナリオをもとに当社が推計
合成燃料価格 700円/l 200円/l(2040年)
100~150円/l(2050年)
資源エネルギー庁 CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性(案)
グリーンLPG価格 950~990円/Nm3(2030年)
平均気温の上昇

参考記載
21世紀末の状態

平均気温 4.3℃ 1.1℃ 環境省・気象庁「21世紀末における日本の気候」平均気温の将来予測
(RCP2.6・8.5)

地域区分については東日本太平洋側

真夏日の日数 0~10日増加(2021年~30年)
20~30日増加(2031年~50年)

三重県・愛知県・岐阜県

0~10日増加(2021年~30年)
10~30日増加(2031年~50年)

三重県・愛知県・岐阜県

国立環境研究所「日本域バイアス補正気候シナリオデータ」(RCP2.6・8.5)

降水・気象パターンの変化

異常気象の激甚化 平均気温の上昇

参考記載
21世紀末の状態

日降水量200mm以上の年間日数 2.3倍 1.5倍 文科省・気象庁「日本の気候変動2020」降水(RCP2.6・8.5)
1時間以上
降水量50mm以上
2.3倍 1.6倍 文科省・気象庁「日本の気候変動2020」降水(RCP2.6・8.5)
日降水量の年最大値 27%(33mm)増加 12%(15mm)増加 文科省・気象庁「日本の気候変動2020」降水(RCP2.6・8.5)
洪水発生頻度   4倍 2倍 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」降雨量、流量の変化倍率と洪水発生頻度の変化
  1. IEA(International Energy Agency)国際エネルギー機関
  2. IEEJ(The Institute of Energy Economics, Japan)一財 日本エネルギー経済研究所

上記の政府機関及び研究機関で開示されているシナリオ・パラメーターなどを参照して、財務影響度を分析しました。

2-3-2 STEP2シナリオ群の定義(将来社会像のイメージ)

(1)4℃シナリオ

※画像をタップすると大きく表示されます。

(2)2℃シナリオ

※画像をタップすると大きく表示されます。

2-3-3 STEP3事業インパクトの評価(財務影響度の評価)

2-3-4 STEP4対応策の定義(重要なリスクに対する対応策)

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当社グループに与える影響が大きいリスク リスクの財務的影響 影響と対応策
4℃ 2℃

移行リスク

炭素価格
(炭素税)

[4℃シナリオ]
(影響)

  • 炭素税は導入されないため、利益への影響はありません。

[2℃シナリオ]
(影響)

  • 炭素税が導入され、税率についても段階的に上昇するため、利益は大きく減少します。

(対応策)

  • 軽油・ガソリン等を使用しないEV車両への置き換えを図るとともに、合成燃料、グリーンLPG等のクリーンエネルギーを使用することで、利益に与える炭素税の影響を小さくします。また、EV車両を始めとする電動車と内燃機関車との価格差については、国の補助拡大等もあり無くなる想定です。ただし、EV車両の導入は電力使用量の増加、合成燃料は軽油に比較して割高な価格が想定されていることから、費用増加にもつながります。

今後量産が期待されるEVの乗合バス(国産車)については、現時点において、バッテリーの充電時間、走行距離、耐用年数等の詳細が明らかになっていないため、本格的な導入は2030年度以降になると想定しています。また、化石燃料(軽油・ガソリン)に代わる合成燃料については、2050年頃の普及を想定しています。一方、貸切バスについては、EV車両生産に関する情報が無く、合成燃料が普及するまでは軽油を使用することになるため、大幅なCO2削減が難しい状況にあります。

燃料費用
(軽油・ガソリン・LPG)

[4℃シナリオ]
(影響)

  • 費用に占める燃料費の割合が高いため、利益は大きく減少します。

(対応策)

  • 燃費性能の良いハイブリッド車両や軽油・ガソリン等を使用しないEV車両への置き換えを図るとともに、車両の効率的な運用等により、使用量を削減していきます。ただし、EV車両を増車すると電力使用量や車両コスト等は増加する可能性があります。

[2℃シナリオ]
(影響)

  • 再生可能エネルギーへの転換や燃費性能の向上による化石燃料の需要減少により石油製品の価格低下が起こり、利益が増加します。ただし、化石燃料の使用は炭素税の影響を受けます。
電力費用

[4℃シナリオ]
(影響)

  • 電力価格は現在と変わらず、かつ、EV車両の割合も低いため、利益への影響はありません。

[2℃シナリオ]
(影響)

  • 電力価格は上昇しますが、EV車両の割合が低いため、利益への影響はありません。

物理的リスク

外出機会減少によるバス等の利用減少

[4℃シナリオ]
(影響)

  • 真夏日の増加や感染症の拡大等に伴う外出機会の減少により、利益は減少します。

(対応策)

  • 事業ポートフォリオを多様化し、利益に与える影響を小さくします。

[2℃シナリオ]
(影響)

  • 外出機会減少等の影響は想定していません。
施設等の浸水被害

[4℃シナリオ]
(影響)

  • 降水、気象パターンの変化(集中豪雨等)により海抜が低い事業所や車庫、道路等が浸水し、事業停止(バスの運休等)や施設損壊が起こり、利益は減少します。

(対応策)

  • BCP対策の徹底、施設の浸水対策等を行い被害の低減を図ります。(今後、浸水リスク等が更に高まった場合には、移転も検討します)

[2℃シナリオ]
(影響)

  • 浸水被害等を想定していません。
  • 大:損益に大きな影響を与える
  • 中:損益に影響を与える
  • 小:損益に軽微な影響を与える
  • -:損益に影響を与えない

3 リスク管理

グループサステナビリティ推進委員会に設置された環境部会において、グループ全体(当期については運輸セグメントのみ)の気候変動に関連するリスク・機会を選定します。そして、これらの中からビジネス・戦略・財務に大きな影響を及ぼす可能性がある項目については、重要なリスク・機会として特定し、対応方針と合わせてグループサステナビリティ推進委員会から取締役会へ報告します。

4 指標と目標(グループ全体)

中長期的な温室効果ガスの削減計画を策定し、2050年度のカーボンニュートラル(CO2排出量実質“ゼロ”)を目指します。その達成に向け、営業車両の電動車(ハイブリッド含む)への切り替えや省エネ機器の導入、EVバスの試験導入等を通じ、2030年度のCO2排出量は、2013年度に比較して30%削減を目指します。

指標と目標(グループ全体)グラフ
対象スコープ グループ全体 目標値
(基準年度2013年度)
Scope1・2
  1. 2050年度 カーボンニュートラル
    (CO2排出量実質”ゼロ”)
  2. 2030年度 30%削減

EVバスの開発スピードや技術的な課題解決、また、合成燃料等のクリーンエネルギーの普及が早まれば、現在の見込みより削減率が大きくなり、カーボンニュートラルの達成時期が前倒しできる可能性があります。

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